ANAとマイルのパパじゃない

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【モンスター】こんな飛行機の乗り方は絶対ダメ! 【クレーマー】

よしもとクリエイティブエージェンシー所属のマンボ奏者。グリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロース。元富士重工業のカーデザイナー。そして泣く子も黙るANAライフタイムミリオンマイラー。この他にも餃子、鉄道、マン盆栽と、どうご紹介すればいいのか迷ってしまうマイラー界の怪人、パラダイス山元さんをご存知でしょうか?

 

その山元さんがこの4月、2冊目となる飛行機エッセイ本『パラダイス山元の飛行機のある暮らし』を上梓され、修行僧の間で愛読されています。全く飛行機に興味ない方でも「えーっ! こんな乗り方あるの!?」と驚愕されるような内容ですので、是非。

 

パラダイス山元の飛行機のある暮らし―――年間最多搭乗1022回「ヒコーキの中の人」が贈る空の過ごし方

パラダイス山元の飛行機のある暮らし―――年間最多搭乗1022回「ヒコーキの中の人」が贈る空の過ごし方

  • 作者: パラダイス山元
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド・ビッグ社
  • 発売日: 2016/04/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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パラダイス山元の飛行機の乗り方

パラダイス山元の飛行機の乗り方

 

 

で、今回の記事タイトル「こんな飛行機の乗り方は絶対ダメ!」というのは、もちろんパラダイス山元さんのことではありません。山元さんの1作目となる『パラダイス山元の飛行機の乗り方』を読んでいて思い出したんです。伝説のあの人のことを。

 

今回は、かつて存在したとんでもないモンスターの話をご紹介いたします。

 

レオナルド熊に似たあの人

パラダイス山元の飛行機の乗り方』から引用。

 

私が搭乗する便に、なぜかしょっちゅう乗り合わせてしまう、年齢60歳代の男性。手にはいつも紙袋。威圧的な大声でキャビンアテンダントさんを捕まえては、長々と会話することが生きがいのような方がおりました。後ろの席に座った有名タレントに、窓のシェードの開閉について説教もしていました。「沖止め」といって、ボーディングブリッジを使わず、到着ロビーまでバス移動する際、運転手に向かって「出発が遅い、もっと早く走れ!」などと怒鳴ったりも。

(中略)

キャビンアテンダントさんに向かって「栓を開けていないシャンパンを持ってきなさい!」と言い放ち、紙袋に詰めて持ち帰っていたりする光景などはまだ序の口で微笑ましかったのです。

 

ここで語られている通称「熊」と呼ばれていたおじさん。この人は、2008年~2009年頃に修行僧の間で話題沸騰だった名物クレーマーなんですよね。

 

当時私は陸マイラー生活を始めたばかりの新米で、飛行機に実際乗るのは年に1~2回のハワイ旅行が精一杯。SFC修行など夢のまた夢でしたから、当然この熊さんに出会ったことは一度もないんですが、その評判だけは2chのエアライン板などでよく知っていたのです。

 

パラダイス山元さんはちょうどその頃、修行僧的な乗り方を始めたところだったため、この熊さんによく出会ったという話が書かれています。

 

きっかけはプレミアムパス

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まずこの熊さんの話をする前に、モンスタークレーマーが爆誕してしまった経緯を振り返っておきましょう。

 

2008年3月1日。この日、マイラー界を揺るがすとんでもないものが発売されました。その名も『プレミアムパス

 

  • 2008年4月1日~2009年3月31日までの1年間、ANA国内線プレミアムクラスが無制限に何回でも乗り放題。もちろん普通席にも乗れる。
  • 価格は300万円。数量限定100枚(その後50枚追加発売があった)
  • 顔写真が裏面に載る。パスはもちろん本人だけが使用できる。
  • サービス内容はプレミアムメンバー「プラチナ」に相当。ラウンジももちろん利用できる。
  • マイルは通常のプレミアムクラス50%増を上回る100%増を加算。

 

今思うと本当に気が狂ったとしか思えない代物です。ちなみに現在、羽田-那覇のプレミアムクラス(旅割28)が片道おおよそ3万円ですから、羽田-那覇を50回往復すれば、元が取れるという計算ですね。

 

「アホか。1年間で50回も沖縄往復してどうすんねん。飽きるわ。疲れるわ」というのが普通の人の感覚でしょう。ANAも主に出張族のビジネス利用を想定しての発売でした。だがしかし、世の中には私たちの想像を遙かに超える人たちが存在しているのです。それを想定できなかったのは、ANAの人たちが善良すぎたということを逆説的に物語っています。

 

2008年に発売された最初のプレミアムパスは、赤太字で書いた通り、マイルが100%増で普通に加算されるという条件でした。これを極限まで利用されてしまったのです。ルールが許していたのだから、ユーザーからすれば決して悪用ではないのですが……。

 

1年365日飛行機に乗り続ける人たちが出現

ごく一部の航空マニアが、プレミアムパスを使い、1年365日、それも1日に6便7便は当たり前という乗り方をするようになりました。プレミアムクラスは美味しい食事が出ますし、お酒もソフトドリンクもありますし、もちろんトイレにも不自由しません。狭い普通席とは違ってゆったりとしていますから、慣れれば4便くらいは苦もなく乗れるという修行僧も多いのです。

 

食事代がかからない。家にいればかかるはずの光熱費もかからない。唯一不便なのは、風呂に入れないことくらいです。

 

仮に羽田-那覇プレミアムクラスを1日に2往復、4レグ乗るとします。当時と今とではマイル加算の計算法が違うんですが、現在の計算法でシミュレーションしてみましょう。羽田-那覇2往復によって貯まるマイルは、ANAカードすら持っていない平会員であっても5,904マイル。ANAゴールドカードを持っていて、ダイヤモンド会員だと、12,988マイル。

 

もしもダイヤモンド会員がこのパスを使って365日、一日も休まず羽田-那覇を4往復し続けたら……。1年間で貯まるマイルは4,740,629マイル! 474万マイル!

 

300万円を出してプレミアムパスを買っても、元が取れるどころか、お釣りが来てしまいます。しかも1年間の食費が全て無料。もはや仕事ですね。三食昼寝付きで、ただただ飛行機に乗るだけの簡単なお仕事です。

 

2008年に初めて発売されたプレミアムパスでは、ANAが全く想定していなかったこのような利用法を実践する者が何人も現れ、それぞれに数百万マイルを荒稼ぎされてしまったのでした。

 

熊、爆誕

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その中に、一人とんでもないモンスタークレーマーが紛れ込んでいたんですね。それがパラダイス山元さんの本にも書かれている「熊」と呼ばれるおじさんです。熊伝説をひもといてみましょう。これこそが「こんな飛行機の乗り方は絶対ダメ!」というものです。

 

  • 靴と靴下を脱ぎ、備え付けのブランケットや枕を足元に置き、裸足を乗せる。(ブランケットは毎便洗濯されるわけではない)
  • 悪臭がひどい。
  • 常に酒を飲んでいるので酒臭さもすごい。
  • 彼が座った後の座席はびしょびしょに濡れている。
  • 機内食の食い散らかし方がすごい。
  • 壁と座席の間にゴミを詰める。
  • 機内で飲食物を余計にもらって持ち帰ろうとする。
  • 周りの客にやたらと話しかける。常連面をして、「この座席は酒はタダだから。何でもタダ。飲まなきゃ損」と誰でも知っていることを得意気に教える。
  • キャビンアテンダントさんに対して大声で怒鳴り散らす。怒ってしゃべってるうちに、自家中毒で怒りを増幅させるタイプ。叱りつけることが生き甲斐。
  • 改装中のラウンジに入れないことに怒り、プレミアムパスを職員に投げつけて罵倒。
  • 羽田2タミ19番で連日地上職員を罵倒。
  • 降機が一番最初じゃないと気が済まない。
  • ボーディングブリッジが接続された後、本来キャビンアテンダントさんが扉の向こうの地上職員と行なう合図を、勝手に自分で行なう。(法令違反)
  • ANAにクレームをつけて25万マイルをせしめたと吹聴。

 

とにかくとんでもない御仁につけ込まれてしまったものです。これだけ傍若無人な振る舞いをしていたのなら、プレミアムパス搭乗期間中であっても、即座にパスを無効にしてもよかったと思うんですが、いろいろと規約などの問題もあって、ANAは一年間我慢したようです。その間、熊さんに出会ったCAさんの心労はいかばかりだったか……。

 

結局この熊さんは1年間で300万マイル以上を稼ぎ出し、そのうちのいくらかをEdyを使って現金化。それでもまだ247万マイルを保有していたのですが、全マイル没収され、二度とANAの飛行機に乗ることはできなくなりました。めでたしめでたし(めでたくない

 

週刊誌が取り上げるまでに

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この熊さん事件は週刊現代2009年4月18日号(4月6日発売)にまで書かれる事態となりました。プレミアムパスの会員資格有効期限が2009年3月31日まででしたから、「2009年1月頃、熊さんとANA側で話し合いがもたれる」→「パスが失効する」→「全マイル没収&ANAマイレージクラブ会員資格停止」というタイミングで、ちょうど週刊現代が発売された感じです。

 

ご興味がある方は、Amazonマーケットプレイスで当時の週刊現代が買えますから、読んでみるのも一興です。

 

週刊現代2009年4月18日号

週刊現代2009年4月18日号

 

 

プレミアムパスのその後

2008年に発売されたプレミアムパスのようなものを、毎年発売できるわけがありません。もちろん翌年からプレミアムパスは大きく条件を変え、マイル加算は一律20万マイルに制限されることになりました。パスを使って数百万マイルを荒稼ぎするという手法は使えなくなったわけです。

 

さらに、規約にこのような文章が書き加えられました。

 

第11条 パス会員が次の各号に該当する場合、当社は、当該パス会員のプレミアムパスの利用について、一定期間の利用停止、又は搭乗区間、搭乗方法、搭乗する便の制限等の必要な措置をとることができます。


 (4) 当社係員の行動を長時間にわたり制限し、暴力的・威圧的・侮辱的な言動を行い、又は義務や理由のないことを強要し、当社業務に支障を及ぼした場合
 (5) 利用可能な範囲を超えて過度な座席予約を行い、又は過度に予解約を繰り返し、当社業務に支障を及ぼした場合
 (6) 他の旅客に不快感を与え、又は迷惑を及ぼした場合
 (7) 当社係員の業務の遂行を妨げ、又はその指示に従わない場合
 (8) 当社との信頼関係を著しく損なう行為を行うなど、当社がパス会員として不適当と判断した場合

 

付け加えられた規約の多くは「二度と熊を発生させない」という目的ですが、気になるのは(5)ですね。プレミアムパスホルダーの中には、熊ほどではなくても、他にも悪質な者がいたと推測されるのです。

 

プレミアムパスでの搭乗は普通運賃扱いですから、予約・変更・キャンセルが自由自在です。これを悪用して、乗りもしない便を予約しまくった者がいたのでしょう。300万円という高額のパスを購入したことで、自分が偉くなったと勘違いしたり、これくらいは当然だろうという甘えがどんどん出てきたんでしょうね。

 

冷静に考えたら、ヨーロッパに2回ファーストクラスで行く人に比べたら、300万円など大した金額ではないのです。そして、欧州Fクラスに乗るような人は、こんな傍若無人な振る舞いは絶対にしないでしょう。

 

その後、プレミアムパスは『プレミアムパス300』と名前を変え、2011年まで発売されましたが、2012年10月以降は姿を消しました。

 

まとめ

2008年に発売されたプレミアムパスはとんでもないモンスタークレーマーを生み出してしまいました。ANAの見通しが甘かったことも事実ですが、こういった特権こそが、モンスター予備軍を本物のモンスターに育てあげてしまったようにも思えます。

 

これはANAダイヤ修行を決意した私にとっても、反面教師としてよーく心に刻んでおかねばならないことです。たとえダイヤモンドステータスになったとしても、自分が偉くなったと勘違いしては絶対にダメだと。特権享受が当たり前のことだと思っては絶対にダメだと。

 

初めて飛行機に乗ったときの楽しさ、初めてラウンジに入ったときの緊張、CAさんからカードをもらったときの嬉しさ、いつまでもそういうのを忘れずに、謙虚なままでいたいものだなと、改めて思いますね。

 

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