2017年、闘いの火蓋が切って落とされた、ANAとJALのホノルル線戦争。2019年から日本で初めてANAが投入する、エアバスA380という怪物機材に対抗すべく、JALはハワイアン航空との提携を結び、圧倒的な便数による利便性で迎え撃つ態勢を整えました。
長らく「儲からないリゾート路線」として機材更新が後回しにされがちだったハワイ路線は、今最もホットな戦場となっているのです。果たして勝負の行方はどちらに!?
実際に乗ってみたANAとJALのホノルル線機材の、シートを比較してみます。
ANAとJALのホノルル線フルフラットシート
成田2便、羽田1便が就航しているANAのホノルル線機材は、2017年9月以降、3便全てでB787-9(以降B789と省略)が使われており、シートもANA BUSINESS STAGGEREDで統一されています。
これに対してJALは、成田4便のうち、2便がB777-200ER(以降B772と省略)、もう2便がB767-300ER(以降B763と省略)となっており、シートもそれぞれ、SKY SUITE Ⅲ、SKY SUITE Ⅱの2種類となっています。(関西、中部はB772のSKY SUITE Ⅲ)
こう言っても分かりにくいですよね。両社のビジネスクラスのシートを実際に見てみましょう。
これがANAのB789、ANA BUSINESS STAGGEREDです。前後のシートが左右互い違いになっており、前席のテーブルの下に足を突っ込む形ですね。2017年9月以降はANAホノルル線ビジネスクラスは全てこのシートです。
実際に乗った感想は「充分な広さ!」という感じです。身長182cm、体重70kgの私でもフルフラットの就寝時にほとんどストレスがありません。
また、JALの2つと比べるとプライベート性が高いのが特徴です。お一人様ならいいんですが、カップルや友人同士、家族旅行が多いと想定されるハワイ路線では、少しマイナスと言えるかもしれません。
48席中の4席だけは、隣席とのディバイダを引っ込めることができる、いわゆる「カップルシート」となっています。ハワイ路線の場合、これは中央全席にした方がいいと思いますね。
実際の搭乗記も併せて読んでみてください。『ANA羽田-ホノルル線初のフルフラット機材B787-9搭乗記』。
こちらはJALのB763に搭載されているJAL SKY SUITE Ⅱ。ANA同様、スタッガードとなっています。しかし客室最大幅が5.49mのB789に対して、わずか4.7mとB763はそもそも機材が小さいので、座席にも大きなスペースを割くわけにいかず、必然的にプライベート性はかなり低くなっています。
ディバイダは存在しないため、逆に言えば、家族との会話はしやすいです。
こちらがJALのB772(客室最大幅5.86m)に搭載されている、最新鋭シート、JAL SKY SUITE Ⅲです。ヘリンボーン型と呼ばれるタイプですが、対になっている左右のシートに高低差をつけ、お互いの足先が交差するようになっています。これは世界初の機構です。
中央全席に可動式のディバイダがあり、プライバシーと家族との会話を両立しています。しかし、実際に搭乗してみた感想は、ANAのSTAGGEREDになれていた分「思った以上に狭苦しくてつらいぞ……」でした。特に足先は幅、高さともに棺桶を思わせる狭さで、私の体格だとぴったりと足を揃えて微動だにできない感じです。
この機材の搭乗記も併せて読んでみてください。『ホノルル線ビジネスクラスJAL SKY SUITEⅢ搭乗記 世界初の高低差があるヘリンボーン型は窮屈だった』
ホノルル線フルフラットのスペックをANAとJALで比較
それぞれのシートスペックを見てみましょう。ANAは公式にサイズを発表していないようです。確度の高い情報として、Aviation Wireの記事を参照しました。青文字、太字がポジティブ、赤文字がネガティブです。
ビジネス比較 | JAL B763 | JAL B772 | ANA B789 |
---|---|---|---|
ベッド長 | 200cm | 198cm | 190.5cm |
シート幅 | 52cm | 52cm | 60cm |
配列 | 1-2-1 | 1-2-1 | 1-2-1 |
液晶サイズ | 15.4インチ | 17インチ | 18インチ |
ディバイダ | 無し | 中央全席可動 | 有り |
JAL B772(SKY SUITE Ⅲ)のベッド幅は公称「最大74cm 」とされていますが、それは三角形のアームレストの部分をサイズに含めるインチキをしているからで、これには全く意味がありません。現実には52cmです。幅52cmのベッドに、22cmの小さい三角形のテーブルがおまけでくっついているイメージです。
こう見ると、ANA BUSINESS STAGGEREDの幅60cmという快適性が光りますね。長さに関してはごく平均的な身長の日本人なら、190cmあれば充分ですし、それを超えるような高身長の人は、いくら200cmの長さがあっても、SKY SUITEの幅52cmでは窮屈すぎるはずですから。
ビジネスクラスのフルフラットシートに関しては、ANAに軍配が上がるという感じです。
ちなみに幅52cmのベッドとはどんな感じなのか、わかりやすい写真がJAL公式サイトにあるので見てみましょう。
こちらはJAL SKY SUITEⅡの幅52cmのフルフラットシートに、まあまあガタイの良さそうな男性が寝ている写真。これ、実によくできた素晴らしいトリック写真ですよね(笑)。男性の手前にはシートの生地が10cmほど見えており、広々とした印象を受けます。しかしよく見ると、左肩はテーブルに乗り上げるようになっており、横臥している状態なんです。
完全に仰向けになったら、この男性の肩、腕は、果たしてシートに収まるんでしょうか? 私自身、腕をぴたっと閉じた状態で自分の体の横幅を測ってみたところ、51cmでした。これでは身動き取れません(笑)。小柄な女性なら問題なさそうではありますが。
ANAとJALのホノルル線エコノミーシートの比較
お金のかからないマイルの貯め方をしっかり覚え、大量マイルが貯められたとしても、誰もがビジネスクラスでハワイに行くわけではありません。エコノミークラスのシートも比較しておきましょう。
ANAのホノルル線、B789のエコノミークラスはシートピッチ34インチ(86.36cm)です。シート背面の液晶パネルを薄型にすることによって、座席全体をスリム化し、その分シートピッチを広げるのがここ最近のトレンドです。
ちなみにホノルル線には投入されていないB787-8(B789より胴体が短い)の場合、シートピッチは国際標準の31インチ(78.74cm)。34インチとの差は7.62cm。たいしたことないように思えますが、実際に座るとこの差は非常に大きいです。特に背の高い男性にとっては天国と地獄。
ANAのシート幅に関しては公式な情報が見つかりませんでした。しかし、実際に乗った人の話を総合すると、JALのSKY WIDERよりは確実に狭いようです。また、ANAの場合は3-3-3の横9席という詰め込み型配列のため、余計にストレスを感じます。
JALのホノルル線B763とB772とで使われているエコノミークラスのシート、SKY WIDERです。こちらもシートピッチはANAと同じ34インチと思いきや、実は微妙に表現が違っています。約84cm~86cmと表記されているんですね。席によっては33インチの場所があるようです。しかし国際標準は31インチ(約79cm)ですから、33インチあれば御の字です。
シート幅に関しては前述の通り、JALの方が勝っています。ホノルル線に投入されている2機種では、B772が幅47cm、B763が幅45cmです。ちなみにホノルル線には投入されていませんが、B787のSKY WIDERの場合は幅48cmにもなっているそうです。プレミアムエコノミーにも匹敵する幅ですね。
ANAはシート幅の公式スペックを明らかにしていませんが、45cm、もしくはそれ以下の可能性が高いです。B772に乗れば、横幅に関してはANAより快適になります。
また、JALホノルル線のB772は、横9席ではあるものの、3-4-2という変則配列のため、特に搭乗率が高いホノルル線エコノミークラスにおいては、3-3-3配列のANAより確実にストレスが少なくて済みます。3-3-3配列の場合、カップルなら必ず横に他人が座り、窓側から2席取ってしまうとトイレに行くのも一苦労。これはいただけません。
元々ボーイング社は2-4-2配列の横8席を想定して787を作ったんですよね……。それでは儲からないからと、ほとんどの航空会社が787を横9席にしてしまった経緯があります。
ホノルル線エコノミーのスペックをANAとJALで比較
ホノルル線エコノミークラスのスペックです。
エコノミー比較 | JAL B763 | JAL B772 | ANA B789 |
---|---|---|---|
シートピッチ | 84~86cm | 84~86cm | 86cm |
シート幅 | 45cm | 47cm | 45cm以下? |
配列 | 2-3-2 | 3-4-2 | 3-3-3 |
液晶サイズ | 10.6インチ | 10.6インチ | 9インチ |
PC電源 | 共用 | 有り | 有り |
USB端子 | 有り | 有り | 有り |
シートピッチはどれに乗っても大差ありません。ホノルル線エコノミークラスの足下は、一昔前と比べたら本当にゆったりになりました。ありがたいことです。
しかし、シート幅と座席配列に関してはJALのB772圧勝という感じです。エコノミークラスに乗るなら、JALのB772を狙いましょう。
ANAとJALのホノルル線プレミアムエコノミーシートの比較
そもそも席数が限られており、運賃もかなり高いため、経験する人も少ないでしょうが、プレエコもさらっと比較しておきましょう。
プレエコ比較 | JAL B763 | JAL B772 | ANA B789 |
---|---|---|---|
シートピッチ | 107cm | 97cm | |
リクライニング | シェル | 通常 | |
シート幅 | 48cm | 49cm | |
配列 | 2-4-2 | 2-3-2 | |
液晶サイズ | 12.1インチ | 11インチ | |
PC電源 | 有り | 有り | |
USB端子 | 有り | 有り |
JALのB763にはプレミアムエコノミーの設定はありません。
シートピッチはJAL、座席幅はANAの方がよくなっています。ANAはなぜかプレミアムエコノミーだけ、シート幅を公表しています。よっぽど自信があるのでしょう。逆に言うとエコノミーには自信がないのかも。
シートピッチに関してはリクライニング方式と深い関係があるためもう少し詳しく解説します。
「シェル」とは、背もたれが後ろに倒れず、座面が前にせり出すことによって、後ろの人に全く迷惑をかけずに済むリクライニング方式です。シェル方式だと、必然的に長いシートピッチが必要となります。座面が前にせり出すため、完全にリクライニングした時の体感シートピッチは、ANAもJALもほぼ同じになります。つまり、足下の広さはどちらも充分に確保できているということです。
足下の広さがほぼ同じなら、リクライニングで後席に迷惑がかからないJALの方がいいという結論になりますね。「背は高くないけど体重が……」という人は、幅の広いANAの方が若干快適かもしれません。
まとめ
- ビジネスクラスならフルフラットシートのサイズが大きく最も快適なANAがおすすめ。ただし、同行者との会話はしづらい。JALはフルフラットでの就寝がかなり狭苦しいが、エコノミーばかりだった人からすれば天国かもしれない。小柄な女性ならどちらを選んでも大丈夫。
- エコノミークラスは座席幅が広く、3-4-2の変則配列が嬉しい、JALのSKY SUITE 777(B772)が絶対のおすすめ。成田便は2種類の機材があるので、B772を狙おう。混雑していない時期なら、シートピッチが充分なANAでも特に問題ない。
- プレミアムエコノミーはシェル方式のリクライニングで後席に気を遣わずに済むJALのSKY SUITE777(B772)がおすすめ。ただし、ANAも決して悪くはない。
2017年現在では、ハワイ路線の機材はややJAL優勢といったところです。マイルを貯めてビジネスクラスで行きたいということであれば、ANAの方が快適だと、両方のビジネスクラスに乗った私が自信を持っておすすめします。
しかし、これはあくまでも座席の快適性という部分しか見ていません。これだけで、ANAとJAL、どちらを選択するかはもちろん決められませんよね。
機内エンターテインメントの充実度、機内サービス、機内食、ラウンジ、現地での特典の有無、地方空港の直行便等々、他にも勘案すべき点はたくさんあります。「そういうのはいい。とにかくフライト時の快適な居住性が一番重要なんだ!」という方にとって、この情報が役立つ事があれば幸いです。
2019年のANAホノルル線にA380が投入されると、情勢はガラリと変わります。その時にはまたレポートいたします。